日本FP協会・金融財政事情研究会の公式問題・模範解答を、級・学科/実技・公開年度に分けて収録しています。CBT公開問題は1セットの公表問題で、全受験者への出題を網羅するものではありません。
2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月8日 PartI PartII・PartI)の概要
急逝した非上場企業オーナーの遺産分割と事業承継対策
資産承継・事業承継 · 遺産分割 / 自社株式の集約 / 納税資金対策 / 小規模宅地等の特例 / 事業承継税制 / 職業倫理
地方都市で建設業を営むX社の代表取締役社長Aさん(享年71歳)が2024年5月に急逝した。遺言書はなく、法定相続人は妻Bさん(68歳・取締役)、後継者である長男Cさん(42歳・取締役)、公務員である二男Dさん(38歳)の3名である。相続財産は現預金9,000万円、妻B受取の死亡退職金5,000万円、X社株式3億2,000万円(持分80%)、自宅兼X社本社ビルの敷地および区分所有建物(計1億5,000万円)、X社資材置き場6,000万円の合計6億7,000万円で、相続税見積額は約2億円(特例適用前)である。二男Dさんは経営参画や不動産の取得は希望しないものの財産の正当な権利(遺留分・法定相続分)を主張している。この状況において、「設例の顧客の相談内容・問題点」「解決策」「具体的提案とその理由・留意点」「FPと職業倫理」について検討しなさい。
解答・解説を表示
解答
設例における相談内容・問題点を抽出し、遺産分割・納税資金調達・自社株集約・特例活用を含む総合的な承継プランを立案の上、職業倫理を遵守して専門家と連携して支援する。
解説
急逝による事業承継では、遺産分割協議を最優先で進める必要があります。遺言書がないためです。経営権を安定させるには、自社株式と事業用資産を後継者に集めることが欠かせません。ただし、後継者でない人の遺留分(最低限もらえる取り分)や法定相続分には配慮が必要です。多額の相続税には、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、事業承継税制の特例措置、自社株買い(金庫株)による納税資金の確保を組み合わせて備えます。
解き方
- 誰が相続人か、財産の中身、会社の財務状況を把握します。そして、遺言書の有無や各相続人の希望を確認します。
- 自社株などを後継者に集め、後継者でない人には代わりの財産を配る方針を立てます。遺留分(最低限の取り分)を侵害しないかも確認します。
- 小規模宅地等の特例や事業承継税制、配偶者の税額軽減を使えるか確認します。相続税の負担をできるだけ小さくします。
- 会社に十分な余剰資金があれば、自社株買いなどで納税資金を用意する方法を検討します。税理士や弁護士と連携して実行を支援します。
答えの内訳
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。:①突然の相続開始により遺言書がなく、後継者である長男への円滑な事業承継(株式・事業用資産の集中)と二男Dさんへの遺産分割の調停が最大の課題である点。②相続税見積額が約2億円と多額である一方、換金性の高い現預金が9,000万円(+死亡退職金5,000万円)にとどまり、納税資金が不足する懸念がある点。③X社株式が相続財産の約半分を占めており、二男Dさんに分散すると経営権が不安定化するリスクがある点。④自宅兼本社ビルが区分所有建物となっており、敷地の小規模宅地等の特例適用や利用関係が複雑である点。
- 遺言書が存在しないため遺産分割協議が必須ですが、後継者でない二男Dさんが相応の財産取得を求めており、自社株や事業用不動産の分散を防ぎつつ合意を形成する必要があります。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。:①遺産分割案の策定:X社株式および事業用不動産を後継者である長男Cさんに集約し、妻Bさんには自宅部分や死亡退職金を、二男Dさんには現預金を中心に配分する代償分割等の検討。②納税資金対策:X社の余剰資金(3億円以上)を活用した金庫株(自社株買い)や配当、死亡退職金の活用、延納・物納の検討。③税負担軽減策:法人版事業承継税制(特例措置)の適用検討、小規模宅地等の減額特例(特定事業用・特定居住用)の適用、配偶者の税額軽減の適用。④不動産の整理:資材置き場や自社ビルの権利関係の整理(X社への売却等)。
- 後継者の経営基盤安定と他相続人の納得感を両立させるため、代償分割や法人余剰資金を活用した自社株買い等を複合的に組み合わせて対策を講じます。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。:【提案】X社株式と本社ビル・資材置き場を長男Cさんが取得し、二男Dさんには現預金を配分するとともに、不足分はCさんがX社に自社株の一部を買い取らせて得た資金で代償金を支払う方策を提案する。併せて配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例を最大限活用する。【理由】X社の経営権をCさんに安定的に集中させ、二男Dさんの権利要求を満たして争族を回避できるため。【留意点】相続発生後であるため特例承継計画の提出期限(原則2026年3月末まで)や遺産分割協議の期限(10カ月以内)に注意すること。また金庫株取得に伴うみなし配当課税の特例(措法9条の7)の適用可否や、二次相続も見据えた妻Bさんの取得割合の調整が必要である。
- 長男Cさんが自社株のすべてを単独で相続すると二男Dさんの遺留分(8分の1)を侵害するおそれがあるため、現預金の配分や代償金の交付により遺留分侵害額請求を防ぐ配慮が不可欠です。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。:①顧客第一主義(相談者である妻Bさん・長男Cさんのみならず、二男Dさんを含めた家族全体の幸福と企業の永続に配慮する)、②法令遵守(コンプライアンスの徹底:弁護士法、税理士法に抵触しないよう具体的な登記・税務・法律紛争は各専門家と連携する)、③守秘義務の厳守(職務上知り得た企業・個人の秘密を漏洩しない)、④説明義務(インフォームド・コンセント:各方策のメリット・デメリットを分かりやすく説明する)、⑤客観的・中立的な立場での適切な助言。
- FPは税理士法第52条等の業法を遵守し、具体的な税額計算や申告書作成、紛争性のある法律事務を直接行わず、提携する専門家チームと協働して包括的なアドバイスを提供する必要があります。

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覚えるポイント
- 事業承継における自社株集約と非後継相続人の遺留分(直系卑属・配偶者は法定相続分の1/2)のバランス確保。
- 非上場株式の納税資金対策としての発行会社への譲渡(相続財産を譲渡した場合のみなし配当課税の特例:措法9条の7)。
- 区分所有建物およびその敷地における小規模宅地等の特例(特定居住用・特定事業用)の適用関係。
間違えやすいところ
- 事業承継税制の特例措置は事前の承認が必要です。しかし、相続が起きた後でも、決められた期限までに特例承継計画を出せば使える場合があることを見落としがちです。
- 会社が自社株を買い取る(金庫株)とき、通常は配当所得として課税され、税率は所得が高いほど上がります。しかし、相続税の申告期限から3年以内に譲渡すると、みなし配当の課税から外れ、譲渡所得(一律約20%)になる特例があることを見落としがちです。
出題の前提:2024年6月8日実施 金融財政事情研究会 1級ファイナンシャル・プランニング技能検定 実技試験(資産相談業務)PartI 設例
出典:金融財政事情研究会『2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月8日 PartI PartII・PartI)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月8日 PartI PartII・PartI)
参照した公式資料
金融財政事情研究会が公開した2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月8日 PartI PartII・PartI)の問題・解答資料です。
- 公式問題(公式掲載ページ) ↗ — www.kinzai.or.jp(資料の掲載案内)
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