日本FP協会・金融財政事情研究会の公式問題・模範解答を、級・学科/実技・公開年度に分けて収録しています。CBT公開問題は1セットの公表問題で、全受験者への出題を網羅するものではありません。
2024年2月 1級 実技(資産相談業務・2月11日 PartI PartII・PartI)の概要
事業承継対策・非上場株式の移転および遺留分民法特例の検討
事業承継・資産承継 · 事業承継税制の特例措置 / 遺留分に関する民法特例 / 自己株式の取得(金庫株) / 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例 / FPの職業倫理
地方中核都市に所在するX株式会社の代表取締役社長Aさん(70歳)は、専務取締役である弟Eさん(68歳)とともに経営からの引退を考えており、後継者として弟Eさんの長男である甥Fさん(45歳・技術部長)への事業承継を計画している。Aさんは特例承継計画を県知事に提出し確認を受けたが、所有するX社株式のうち事業承継税制を活用できる最低贈与株数をFさんに贈与し、残りは将来金庫株により換金して子(長女Cさん・二女Dさん)に遺す財産にしたいと考えている。また弟Eさんの持分の引き継ぎ方や遺留分に関する民法特例の手続きについても疑問を持っている。設例の状況に基づき、顧客の相談内容・問題点、解決策、具体的な提案・理由・留意点、およびFPの職業倫理について述べよ。
解答・解説を表示
解答
相談内容・問題点(後継者への経営権集中、事業承継税制の適用方針、遺留分対策、金庫株の実現性・税負担、弟Eさんの保有株式の承継)、解決策(法人版事業承継税制の特例措置活用、遺留分民法特例の合意、遺言作成、相続発生後の金庫株特例の活用)、具体的提案と留意点(経営権安定のため議決権3分の2以上の早期確保、除外合意・固定合意の全員合意要件、認定取消リスク管理)、FPの職業倫理(顧客第一主義、守秘義務、法令遵守・隣接士業との連携、インフォームド・コンセント)。
解説
事業承継対策では、後継者への経営権の集中、自社株評価の引き下げと税負担の軽減、遺留分侵害リスクの回避、非後継者への配慮を、総合的かつ計画的に実行することが欠かせません。これらはどれか一つでは足りず、互いに関係し合っているからです。経営権・税負担・遺留分・非後継者への配慮をまとめて整えることで、円満な事業承継と資産承継が実現できます。
解き方
- 設例の顧客の現状、財産の構成、家族関係、会社の経営状況、後継者の体制を正しくつかみます。
- 事業承継の課題(後継者の議決権の割合、弟Eさんの持分、遺留分の問題、金庫株の税務・会社法上の論点)を洗い出します。
- 法人版事業承継税制(特例措置)、遺留分に関する民法特例、公正証書遺言、生命保険の活用などの具体策をくらべて検討します。
- FPとして守るべき職業倫理(顧客利益を第一にすること、守秘義務、説明義務、隣接士業法等の法令遵守)を整理して回答を組み立てます。
答えの内訳
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。:①後継者Fさんへの円滑な事業承継と経営権の集中(議決権の確保)、②弟Eさんが所有するX社株式(20%)の承継方法、③事業承継税制(特例措置)における贈与対象株数の考え方の誤解、④将来の金庫株(自己株式取得)による換金に伴う財源規制やみなし配当課税等の問題、⑤長女Cさん・二女Dさんの遺留分侵害リスクと遺留分民法特例の適用要件、⑥多額の相続税(約1億4,000万円)に対する納税資金対策および遺産分割対策。
- Aさんは最低贈与株数のみを事業承継税制で贈与し残りは金庫株で換金したいと考えていますが、会社法上の分配可能額規制やみなし配当課税(総合課税で最大約55%)の負担が生じるリスクがあります。また、甥Fさんの経営権安定のためには議決権3分の2以上の集約が望ましく、弟Eさんの持分(20%)の移転方針や、非後継者である実子2名への配慮と遺留分対策が重要な課題となります。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。:①法人版事業承継税制(特例措置)を活用した、Aさんおよび弟EさんからのX社株式の贈与・事業承継、②経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法特例(除外合意・固定合意)の活用、③公正証書遺言の作成と後継者への本社・工場土地等の円滑な承継(小規模宅地等の特例の特定同族会社事業用宅地等の適用検討)、④相続発生後の「相続財産を譲渡した場合のみなし配当課税の特例(措法9条の7)」を活用した金庫株による納税資金確保、⑤生命保険等を活用した納税資金・代償分割資金の準備。
- 事業承継税制の特例措置は代表権を譲渡した複数の贈与者(最大3名)から後継者への贈与についても全株式を対象に納税猶予が受けられます。また、遺留分算定基礎財産から贈与株式を除外する「除外合意」や価額をあらかじめ固定する「固定合意」を組み合わせることで将来の争族を予防できます。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。:【提案内容】事業承継税制の特例措置を活用してAさんおよび弟Eさんの保有株式を後継者Fさんに集約し、併せて公正証書遺言の作成と遺留分民法特例(除外合意等)の手続きを進めることを提案する。 【理由】Fさんに議決権の3分の2以上を早期に集約することで特別決議を単独可決できる強固な経営基盤を確立でき、贈与税の全額納税猶予により税負担を回避できるため。また、事前に遺留分対策を講じることで長女・二女との将来の紛争を防げるため。 【留意点】特例承継税制は役員就任要件・代表権制限・継続届出書の提出義務等の取消事由があり、認定取消時は猶予税額と利子税の納付が必要となる点。遺留分特例の適用には推定相続人全員の書面合意、経済産業大臣(中小企業庁)の確認、家庭裁判所の許可が必要である点。また非後継者である長女・二女に対して現預金や生命保険を活用した代償財産・遺産分割の配慮が不可欠である点。
- 最低株数のみの贈与では経営権が不安定となり、生前贈与株式は遺留分算定の対象となるため、民法特例の合意と遺言作成が不可欠です。また金庫株による換金は相続発生後に「相続税の申告期限から3年以内」に行うことでみなし配当課税が除外され20.315%の申告分離課税となる特例を活用する方が有利になります。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。:①顧客第一主義:Aさんおよび親族、X社全体の繁栄と円満な事業・財産承継を最優先に考えて行動すること。 ②守秘義務の遵守:相談業務を通じて知り得たX社の財務情報や家族関係などの秘密・個人情報を厳格に保護・管理すること。 ③インフォームド・コンセント(十分な説明と同意):事業承継税制のリスクや取消事由、遺留分特例の要件などを分かりやすく説明し、顧客の納得と同意を得ながら進めること。 ④コンプライアンス(法令遵守):税理士法(具体的な税額計算や税務書類作成)、弁護士法(非弁活動・紛争性の高い合意交渉代理)、司法書士法(登記申請業務)等の隣接士業の専任業務に抵触しないよう厳格に遵守し、必要に応じて税理士・弁護士等の専門家と適切に連携すること。
- ファイナンシャル・プランナーは広範な専門知識を総合的に活用して助言を行いますが、各士法に抵触する個別具体的な業務(税務代理・紛争交渉代理・登記代理等)を無資格で行うことは法律で禁止されているため、提携する専門家と連携してチームで顧客を支援する姿勢が求められます。
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覚えるポイント
- 事業承継税制の特例措置は全株式(100%)が納税猶予の対象となり、複数の贈与者(最大3人)からの贈与にも適用可能である。
- 遺留分に関する民法特例(除外合意・固定合意)の適用には、後継者を含む推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可が必要である。
- 自己株式の取得(金庫株)では通常みなし配当課税が生じるが、相続税申告期限から3年以内に相続税の課税対象株式を譲渡した場合は譲渡所得課税(申告分離課税)となる特例がある。
間違えやすいところ
- 事業承継税制の特例措置で、贈与する株数に下限や上限(一般措置では3分の2まで)の制限があると間違えること。
- 遺留分の除外合意が、後継者と被相続人の2者だけの合意で成立すると間違えること(推定相続人全員の合意が必要)。
- 金庫株で換金すると、会社法上の分配可能額の不足や高いみなし配当課税(最大約55%)が起こることを見落とすこと。
出題の前提:2023年度(2024年2月11日実施)金融財政事情研究会 1級ファイナンシャル・プランニング技能検定 実技試験(資産相談業務)PartI 設例
出典:金融財政事情研究会『2024年2月 1級 実技(資産相談業務・2月11日 PartI PartII・PartI)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
2024年2月 1級 実技(資産相談業務・2月11日 PartI PartII・PartI)
参照した公式資料
金融財政事情研究会が公開した2024年2月 1級 実技(資産相談業務・2月11日 PartI PartII・PartI)の問題・解答資料です。
- 公式問題(公式掲載ページ) ↗ — www.kinzai.or.jp(資料の掲載案内)
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