日本FP協会・金融財政事情研究会の公式問題・模範解答を、級・学科/実技・公開年度に分けて収録しています。CBT公開問題は1セットの公表問題で、全受験者への出題を網羅するものではありません。
2023年9月 1級 実技(資産相談業務・9月23日 PartI PartII・PartI)の概要
事業承継対策・自社株移転と経営課題の解決
事業承継・資産相談 · 自社株対策 / 事業承継税制 / M&A / 役員退職金 / iDeCo+ / 遺留分対策 / 職業倫理
地方中核都市で機械部品製造業を営むX株式会社の代表取締役社長であるAさん(75歳、持株比率70%)は、共同設立者である取締役副社長Eさん(75歳、持株比率30%)とともに、3年後の創立50周年を機に、それぞれの子である長男Cさん(47歳、管理本部長)およびEさんの子Fさん(46歳、生産本部長)へ経営権および所有株式を承継して退任することを検討している。自社株の移転手法・税負担、M&Aの可能性、不良在庫の処理、労働者不足対策としての「iDeCo+」の導入、遺産分割・相続税対策などの観点から、相談内容と問題点、解決策、優先提案および留意点、FPの職業倫理について説明しなさい。
解答・解説を表示
解答
顧客の相談内容・問題点を整理した上で、親族内承継(生前贈与・譲渡、事業承継税制の活用、役員退職金支給による株価引き下げ等)を主軸としつつ、不良在庫の廃棄損計上、iDeCo+の導入、後継者以外の推定相続人への配慮(遺留分対策)、専門家との連携や守秘義務等の職業倫理の遵守を総合的に提案する。
解説
事業承継では、後継者の適性確認・育成、自社株の評価引き下げと移転手法(生前贈与・売買・事業承継税制)、勇退役員の資金確保、後継者以外の相続人に対する遺留分対策および争族防止、ならびに企業の経営基盤強化(福利厚生向上等)を総合的・計画的に進めることが基本原則となります。
解き方
- 設例の企業の現状(業績、株主構成、後継者の状況、経営課題)および相談者の個人資産状況を的確に把握・整理する。
- 事業承継方針(親族内承継かM&Aか)の方向性を整理し、自社株評価の引き下げ要因(役員退職金、不良在庫処分等)を検討する。
- 自社株の円滑な移転手法(贈与・事業承継税制特例など)および分散防止策、遺留分対策(遺言、生命保険、民法特例)を立案する。
- 労働者不足への対応策(iDeCo+など福利厚生の改善)を確認し、FPの職業倫理と専門家連携に基づき総合的な助言を取りまとめる。
答えの内訳
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。:①3年後の創立50周年に向けた後継者(長男Cさん、Fさん)への円滑な事業承継(地位の移転および自社株の移転手法・税負担の軽減)。②M&Aの検討(選択肢としてのメリット・デメリット)。③不良在庫の処理および慢性的な労働者不足への対応(「iDeCo+」の導入可否・仕組み)。④Aさん自身の相続対策(自社株や自宅不動産を含む遺産分割対策、長女Dさんへの配慮・遺留分対策、納税資金の確保)。⑤高水準な配当政策による株価引き上げ要因の存在。
- AさんとEさんはともに75歳であり、3年後の引退に向けて自社株の評価・移転計画を早期に策定する必要があります。また、X社には不良在庫や人手不足といった経営課題が存在し、Aさんの個人資産では自宅や自社株の占める割合が大きく、後継者ではない長女Dさんとの遺産分割における公平性の確保が課題となります。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。:①自社株移転対策として、生前贈与(暦年課税・相続時精算課税)や法人・後継者への譲渡、法人版事業承継税制(特例措置)の適用検討。②役員退職金の支給による勇退支援および純資産価額・比準価額の引き下げ。③不良在庫の廃棄・評価損計上による適正処理と株価引き下げ。④「iDeCo+」(中小事業主掛金納付制度)の導入による福利厚生の充実と人材確保・定着。⑤遺言書の作成、生命保険の活用(代償分割資金等の準備)、遺留分に関する民法特例(除外・固定合意)の検討。⑥M&Aについては他社比較・現状評価として情報収集・比較検討を行うこと。
- 株価対策として不良在庫の処分や退職金支給が有効であり、事業承継税制の特例承継計画の提出期限等も踏まえた手続きが有効です。また、福利厚生制度の拡充により採用力を強化し、法的な遺産分割対策を並行して講じる必要があります。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。:【提案】後継者であるCさん・Fさんへの親族内承継を軸とし、役員退職金の支給と不良在庫処理による自社株評価引き下げを実施した上で、事業承継税制(特例措置)や贈与を活用して株式移転を進めること。 【理由】後継者2名が社内外からの信頼が厚く承継に合意しており、現時点で第三者承継(M&A)を選ぶ合理性が低いため。退職金支給や不良在庫処分は会社財務の健全化と自社株移転費用の低減を同時に達成できるため。 【留意点】特例承継計画の提出期限(現行の制度スケジュール)を確認し遵守すること。代表権の配分や株主総会の特別決議要件(3分の2以上)を踏まえた持株比率・議決権の安定化に配慮すること。長女Dさんの遺留分を侵害しないよう代償金や生命保険を準備すること。iDeCo+の導入には労働組合等の同意が必要であること。
- 後継者の意欲と能力が十分であるため親族・役員内承継が第一選択肢となります。その際、株価対策と承継税制を組み合わせることで税負担を最小化できますが、将来の経営の安定性のため議決権比率の管理や推定相続人間での争族防止対策が不可欠です。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。:①顧客第一主義:Aさんおよび親族、X社全体の繁栄と幸福を最優先に考えた提案を行う。②守秘義務の遵守:相談で知り得たX社の財務情報や家族の個人情報を厳格に管理・保護する。③説明義務(インフォームド・コンセント):事業承継税制やM&A等のメリット・デメリット・コストについて十分な情報提供と説明を行い、顧客の納得と同意を得る。④コンプライアンス(法令順守):税理士法(具体的な税務計算・申告)、弁護士法(法律事務)、社会保険労務士法等に抵触しないよう留意し、各専門家と緊密に連携(士業ネットワークの活用)して支援する。⑤自己研鑽:最新の税制改正や事業承継関連法規の習得に努める。
- FP業務の根幹として、法令順守や顧客の真の利益の追求が求められます。特に事業承継相談では高度な税務・法務判断が伴うため、非専門分野において士業独占業務を侵害せず協働することが極めて重要です。

関連する分野を学ぶ
覚えるポイント
- 事業承継税制(特例措置)の適用要件と計画提出期限
- 大会社の自社株評価方式(原則として類似業種比準価額方式)
- 役員退職金支給および不良在庫処理による株価引き下げ効果
- iDeCo+の対象要件(従業員数300人以下、企業年金不実施等)
- FP倫理の重要5原則(顧客第一、守秘義務、説明責任、法令順守、能力開発)
間違えやすいところ
- 大会社において小会社のような純資産価額中心の評価と混同すること
- 親族内承継が極めて順調に進んでいる状況で、無条件にM&Aを最優先解決策として提示してしまうこと
- 後継者以外の相続人(長女Dさん)の遺留分侵害や分割対策への配慮を失念すること
出題の前提:2023年9月23日実施の金融財政事情研究会 1級ファイナンシャル・プランニング技能検定実技試験(資産相談業務)PartI設例。
出典:金融財政事情研究会『2023年9月 1級 実技(資産相談業務・9月23日 PartI PartII・PartI)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
2023年9月 1級 実技(資産相談業務・9月23日 PartI PartII・PartI)
参照した公式資料
金融財政事情研究会が公開した2023年9月 1級 実技(資産相談業務・9月23日 PartI PartII・PartI)の問題・解答資料です。
- 公式問題(公式掲載ページ) ↗ — www.kinzai.or.jp(資料の掲載案内)
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