日本FP協会・金融財政事情研究会の公式問題・模範解答を、級・学科/実技・公開年度に分けて収録しています。CBT公開問題は1セットの公表問題で、全受験者への出題を網羅するものではありません。
2026年6月 1級 実技(資産相談業務・6月7日 PartI PartII・PartI)の概要
調剤薬局経営者の事業承継・資産承継および従業員持株会
事業承継・相続 · 事業承継 / 従業員持株会 / 自社株評価・納税資金対策 / 遺留分配慮・遺言 / FPの職業倫理
大都市圏で調剤薬局を営む非上場会社(X社)の代表取締役Aさん(65歳)は、業界再編や薬価改定による収益悪化に危機感を抱きつつ、従業員のモチベーション向上や自社株対策を目的とした従業員持株会の設立を検討している。親族内承継として管理部門に勤務する長女Cさんへの承継を視野に入れる一方、大手薬局チェーンからのM&Aの打診も受けている。推定相続人は妻Bさん、長女Cさん、勤務医である長男Dさんであり、総資産6億円(うちX社株式2億9,700万円、X社本社兼店舗土地1億2,000万円等)に対する相続税および遺産分割の納得感確保が課題となっている。本設例における問題点、解決策、優先提案とその留意点、FPの職業倫理について述べよ。
解答・解説を表示
解答
顧客の相談内容・問題点(後継者選定・確定、従業員持株会の設計、自社株評価引下げと納税資金対策、遺産分割・遺留分への配慮)を整理し、親族内承継またはM&Aの比較検討、持株会設立による株価対策、役員退職金活用や各種特例適用、遺言書作成を提案する。FPは顧客利益を最優先し、士業等の専門家と連携して守秘義務や説明義務を遵守する。
解説
事業承継対策では、後継者教育・自社株対策・遺留分対策を一体で、段階的に進めることが欠かせません。理由は、親族内承継・親族外承継(M&A)・従業員承継のどれを選ぶかによって、必要な準備が変わるからです。自社株対策では評価を下げることと納税資金を用意することが両方必要で、遺留分対策では親族間の公平性に配慮します。
解き方
- まず、会社の経営状況や後継ぎ候補の意向、持っている財産の中身(自社株・土地・現預金など)をつかみます。そして、かかる相続税の額をおおよそ計算します。
- 次に、事業をどう引き継ぐか(長女Cさんを育てるか、M&Aか)の方針を整理します。そして、従業員持株会をつくる目的と気をつける点を詳しく調べます。
- さいごに、自社株の評価を下げる方法、納税資金の用意(役員退職金・特例の利用)、遺産分割の対策(遺言・生命保険)を整理します。そのうえで、優先する順番と気をつける点をまとめます。
答えの内訳
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。:①従業員持株会設立のメリット・デメリットと仕組みの理解不足、②後継者(長女Cさん・長男Dさん・M&A)の選定と経営権集中の難しさ、③X社株式および事業用土地の評価が高額で相続税負担(約1億7,300万円)と納税資金不足が懸念されること、④遺産の大半が事業用資産であることによる長男Dさんとの遺産分割・遺留分に関する納得感の確保が問題点として挙げられる。
- 長女Cさんは経営者としての自覚が未成熟で、長男Dさんは医師の道へ進む意向があるため後継者の確定が急務です。また、総財産6億円のうち自社株と事業用土地が約7割を占め、現預金1億円では納税資金が不足する可能性があり、長男Dさんへの配慮も含めた遺留分対策が必要です。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。:①従業員持株会の適切な組成による議決権の分散防止(理事長権限や買戻し規程)と配当還元方式の活用、②長女Cさんとの対話および役員就任等を通じた経営教育の実施、またはM&A(親族外承継)の多角的な比較検討、③役員退職金の支給による自社株評価引下げと納税資金確保、④小規模宅地等の特例(特定同族会社事業用宅地等・特定居住用宅地等)や事業承継税制の検討、⑤公正証書遺言の作成や生命保険を活用した長男Dさんへの代償資金対策が考えられる。
- 持株会導入時は配当還元価額での譲渡によりAさんの資産圧縮が図れますが、議決権制限株式の活用や規約の整備が必須です。また、自社株評価の引下げや遺産分割の公平性を保つため、役員退職金準備と生命保険の非課税枠・代償分割資金の確保を総合的に講じる必要があります。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。:まず親族内承継かM&Aかの基本方針を確定させるため、長女Cさんの意思確認と役員登用による後継者育成を最優先で進め、併せて公正証書遺言の作成と生命保険を活用した遺留分・納税資金対策を提案する。理由として、経営方針の早期確定が持株会導入や株式移転の前提条件となるため。留意点としては、持株会設立に伴う退職時の株式買取資金の確保や、長男Dさんの遺留分侵害を防ぎ親族間の円満な合意形成を図る必要がある点である。
- 事業承継の方向性が定まらなければ、株式の移転スキームや持株会の規模・設計を確定できません。長女Cさんの承継意思を醸成しつつ、将来の相続トラブルを予防するために遺言や代償財産(現預金・生命保険金)の手当てを並行して行うことが重要となります。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。:FPの職業倫理として、①顧客第一主義、②守秘義務の遵守、③インフォームド・コンセント(丁寧な説明と同意)、④法令遵守(コンプライアンス)、⑤継続的研鑽が求められる。特に税務相談や法的手続きについては、税理士法・弁護士法に抵触しないよう、税理士や弁護士等の専門家と緊密に連携してサポートする必要がある。
- 事業承継や資産承継の助言では高度な法務・税務判断が伴うため、FP自身が個別具体的な税務計算や遺言作成を代行することなく、適切な士業ネットワークと協働し顧客の利益を守る姿勢が不可欠です。
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覚えるポイント
- 従業員持株会への自社株譲渡時は配当還元方式が適用可能だが、規約や議決権制限の設計が重要である。
- 特定同族会社事業用宅地等の小規模宅地特例は400㎡まで80%減額可能であり、無償返還届出書の有無等が要件に関係する。
間違えやすいところ
- 長男Dさんが医師として独立しているからといって、遺留分(相続でもらえる最低限の分)を考えずに、全財産を長女に集めると、相続争いの原因になります。
- 自社株の対策として従業員持株会をつくるときに、従業員が退職したときの株式の買い取りルールや、議決権(株主としての意見を言える権利)が散らばる危険を考え忘れてしまいます。
出題の前提:2026年度第1回ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)Part I設問基準
出典:金融財政事情研究会『2026年6月 1級 実技(資産相談業務・6月7日 PartI PartII・PartI)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
2026年6月 1級 実技(資産相談業務・6月7日 PartI PartII・PartI)
参照した公式資料
金融財政事情研究会が公開した2026年6月 1級 実技(資産相談業務・6月7日 PartI PartII・PartI)の問題・解答資料です。
- 公式問題(公式掲載ページ) ↗ — www.kinzai.or.jp(資料の掲載案内)
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