日本FP協会・金融財政事情研究会の公式問題・模範解答を、級・学科/実技・公開年度に分けて収録しています。CBT公開問題は1セットの公表問題で、全受験者への出題を網羅するものではありません。
2025年9月 1級 実技(資産相談業務・10月5日 PartI PartII・PartI)の概要
非上場会社の事業承継と遺産分割対策および役員・従業員福利厚生プランの検討
資産承継・事業承継 · 事業承継対策 / 自社株対策 / 自己株式の取得 / 遺留分・遺言書 / 小規模宅地等の特例 / FPの職業倫理
地方中核都市で情報通信機器の販売等を営むX株式会社(非上場会社)の代表取締役Aさん(70歳)は、後継者である長男Cさん(42歳・取締役)へのスムーズな事業承継を75歳までに完了させたいと考えている。親族外の専務取締役甲さん(68歳)が保有するX社株式(10%)の集約、長男Cさんへの事業用資産集中と長女Dさん(38歳)への配慮を踏まえた遺産分割、相続税の納税資金準備、さらに従業員の人材確保・育成に向けた福利厚生プランの導入について相談を受けた。設例に基づき、顧客の相談内容・問題点、解決策、優先提案とその理由・留意点、およびFPの職業倫理について答えなさい。
解答・解説を表示
解答
1. 相談内容および問題点:75歳までの代表権交代と経営権移譲、専務甲氏からの株式10%買取りによる議決権集約、長男C氏への株式・自宅集中に伴う長女D氏への遺留分配慮と公平な資産承継、約7,000万円と見積もられる相続税の納税資金確保、従業員確保・育成のための福利厚生プランの適否検討。 2. 提案・方策:事業承継計画の策定、法人による専務甲氏からの自己株式取得、公正証書遺言の作成と生命保険を活用した遺留分・納税資金対策、自宅敷地への小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用検討、中立的な立場からの福利厚生保険プラン(養老保険や退職金共済等)の検証。 3. 優先提案・理由・留意点:事業承継計画の策定と遺言書の作成、ならびに甲専務からの自己株式買取りを優先提案する。親族内および会社内の将来的な紛争(争族・経営混乱)を未然に防ぎ、後継者の安定的経営基盤を早期に固めるためである。留意点として、長女D氏の遺留分侵害防止、自己株式取得時の財源規制とみなし配当課税への配慮、各種専門家(税理士・弁護士等)との連携が挙げられる。 4. FPと職業倫理:顧客利益の最優先、守秘義務の厳守、インフォームド・コンセント(丁寧な説明と同意)、コンプライアンス(税理士法・弁護士法等の業法遵守)、中立公正な立場でのアドバイス。
解説
非上場会社の事業承継では、後継者への経営権(議決権)の集中と、相続人どうしの公平な資産承継(遺留分対策)を両立させることが基本です。片方だけを進めると、親族間の争いや会社の混乱が起きやすいからです。また、自己株式の買取りや退職金の活用による株価引き下げ・税務最適化を検討しつつ、FPは各士業法を守って中立的な立場で助言する必要があります。
解き方
- 設例の親族関係、持っている財産(現預金・自社株・自宅)、X社の財務と株式の持ち分(Aさん80%、Cさん10%、甲さん10%)を整理します。
- 事業承継の課題(甲専務の株の集約、後継者Cさんへの権限移譲)、相続税と遺産分割の課題(長女Dさんへの配慮、納税資金7,000万円の確保)、経営の課題(福利厚生プラン)を洗い出します。
- それぞれの課題に対応する具体策(事業承継計画、自己株式の取得、遺言の作成、生命保険の活用、特例の活用)を考え、提案の優先順位と気をつける点をまとめます。
答えの内訳
- 設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。:①長男Cさんへの75歳までの円滑な事業承継と経営権移譲、②専務甲さんが保有するX社株式(10%)の買取り・議決権集約、③長男Cさんへの自社株・自宅集中に伴う長女Dさんとの遺産分割の公平性および遺留分への配慮、④相続税額約7,000万円に対する納税資金の確保、⑤人材確保・育成に向けた保険会社提案の「福利厚生プラン」の適否・財務影響の検証。
- Aさんは現在70歳であり75歳までに承継を完了させたい意向があること、親族外役員である甲専務の株式買取り、長女Dさんへの配慮と遺留分問題、多額の相続税納税、および保険プランの妥当性評価が主要な検討論点となります。
- それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。:①中長期的な事業承継計画の策定と長男Cさんへの段階的権限移譲、②X社による専務甲さんからの自己株式買取り(退職慰労金支給と合わせた検討)、③公正証書遺言の作成および生命保険(受取人を長男Cさん・長女Dさん等に設定)を活用した代償交付金・納税資金の確保、④小規模宅地等の特例(二世帯住宅における特定居住用宅地等)の活用、⑤就業規則や退職金規程の整備を踏まえた適切な福利厚生制度(養老保険ハーフタックスプランや中退共など)の導入。
- 経営承継と資産承継の両面から、自社株対策(集約・評価引き下げ)、民法上の争族対策(遺言・遺留分)、税務特例の適用、および福利厚生制度の客観的検証を包括的に提示する必要があります。
- それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。:【提案】事業承継計画の策定、甲専務からの自己株式買取り、および公正証書遺言の作成を優先提案する。 【理由】早期に承継ステップを明確化して経営権を安定させ、専務保有株を買い取ることで長男Cさんの経営支配権を確固たるものにするとともに、遺言書により死後の遺産分割争い(争族)を確実に防ぐため。 【留意点】長女Dさんの遺留分を侵害しない財産配分(または生命保険金を原資とする代償金手当)を行うこと、自己株式取得における会社法上の分配可能額規制やみなし配当課税に留意すること、実行にあたり税理士や弁護士等の専門家と緊密に連携すること。
- 後継者の安定的な経営支配(議決権集中)と相続開始後の親族間紛争防止が最優先事項であり、会社法・税法上の規制と遺留分規定を遵守しながら進めることが肝要です。
- FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。:①顧客利益の最優先(Aさんおよび後継者・家族の最善の利益を追求する)、②守秘義務の遵守(相談内容や自社財務情報を外部に漏らさない)、③インフォームド・コンセント(各種方策のメリット・デメリットやリスクを十分に説明し納得・同意を得る)、④コンプライアンスおよび業務範囲の遵守(税理士法や弁護士法等に抵触する個別具体的な判断・手続は行わず専門家と協働する)、⑤中立公正な立場の保持(保険会社の提案等に対して第三者として偏りのない助言を行う)。
- FP実務において最も基本となる職業倫理要件であり、法令遵守や顧客本位の業務運営、隣接士業との適切な協働姿勢が求められます。
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覚えるポイント
- 非上場株式の集約では自己株式取得(財源規制・みなし配当課税)や買取り資金の確保が重要論点となる。
- 遺産分割では後継者への財産集中と他相続人の遺留分侵害防止(遺言・生命保険代償金の活用)のバランスをとる。
- FPは税理士法・弁護士法等の業法遵守(コンプライアンス)と顧客利益最優先の倫理を徹底する。
間違えやすいところ
- 長男Cさんに株式と自宅を集中して相続させることだけを考え、長女Dさんの遺留分の侵害や公平感への配慮を忘れてしまうこと。
- 甲専務から株式を買い取るときに、会社法上の分配可能額の規制や、みなし配当課税(譲渡所得税との違い)を考え忘れてしまうこと。
- FPが自分で具体的な税額計算や遺言書作成の代理業務を行うと説明し、業法(税理士法・弁護士法)に違反する回答をしてしまうこと。
出題の前提:2025年10月5日実施の1級ファイナンシャル・プランニング技能検定実技試験(資産相談業務・Part I)の設例および検討のポイントに基づき、現行の会社法、民法(相続法)、相続税法に準拠して解説を作成。
出典:金融財政事情研究会『2025年9月 1級 実技(資産相談業務・10月5日 PartI PartII・PartI)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
2025年9月 1級 実技(資産相談業務・10月5日 PartI PartII・PartI)
参照した公式資料
金融財政事情研究会が公開した2025年9月 1級 実技(資産相談業務・10月5日 PartI PartII・PartI)の問題・解答資料です。
- 公式問題(公式掲載ページ) ↗ — www.kinzai.or.jp(資料の掲載案内)
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