日本FP協会・金融財政事情研究会の公式問題・模範解答を、級・学科/実技・公開年度に分けて収録しています。CBT公開問題は1セットの公表問題で、全受験者への出題を網羅するものではありません。
2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)の概要
顧客へのヒアリング事項とFPによる独自調査事項の整理
不動産・相続設計 · 不動産相談実務 / 顧客ヒアリング / 物件調査
三大都市圏のS市に所在する甲土地(X社へ旧借地法で貸付中・残存5年)および乙土地(自宅・築43年建物あり)を所有するAさん(90歳、要介護1)は、T市の介護付き有料老人ホームへの近々の入居を予定している。X社より2025年9月での中途解約の申入れがあり、地元不動産会社からは両土地の一体売却(マンション用地として約3億5,000万円)を提案され、Aさんも売却を前向きに考えている。Aさんに対して最適なアドバイスを行うために、示された情報以外に収集・確認すべき情報を「①Aさんから直接聞いて確認する情報」と「②FP自身が調べて確認する情報」に整理して答えなさい。
解答・解説を表示
解答
①Aさんから直接聞く情報:入居予定の老人ホームの一時金や生活費の意向、土地売却や資産承継に対するAさんおよび長男・二男の意向、過去の贈与状況や他の保有資産、遺言の有無等。②FP自身が調べる情報:土地建物の登記事項証明書や公図、借地契約書の内容、建築基準法・都市計画法上の規制状況、甲土地・乙土地の一体売却相場や開発需要、譲渡税や相続税の試算情報等。
解説
不動産の売却などの相談では、顧客への聞き取りとFP自身の調査の両方が必要です。顧客の希望や家族関係、資産全体の状況は、本人に聞かなければ分かりません。一方、権利関係や法令の規制、税金、市場の状況は、FPが資料や法令に基づいて確かめる必要があります。
解き方
- Aさんから直接聞くべきことを洗い出します。生活設計(老人ホーム)や家族関係(推定相続人)、資産承継(贈与・遺言)が中心です。
- FP自身が調べるべきことを整理します。不動産の権利関係、借地契約の中身、法令の規制や現地の状況、売却の相場や税負担などです。
答えの内訳
- ①Aさんから直接聞いて確認する情報:老人ホーム入居に伴う一時金や今後の生活設計、甲土地・乙土地の売却時期・価格・手取額の使途に関する本人の意向、長男Bさん・二男Cさんの売却および将来の遺産分割に関する考え方・意向、過去10年間の贈与の実態(贈与契約書や申告状況)および他に保有する財産の有無、遺言書の有無や内容など。
- 相談者の意向に沿った提案を行うため、住み替え先での所要資金、親族間の合意形成、保有資産の全体像と資産承継に関する意向を把握する必要があります。
- ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報:甲土地・乙土地・乙建物の登記事項証明書、公図、地積測量図等の権利関係および境界確定状況、X社との借地契約書(中途解約条項、原状回復や敷金・保証金返還、建物買取請求権に関する約定)、都市計画法・建築基準法上の公法規制や接道状況、周辺のマンション素地等の取引相場および需要、売却に伴う譲渡所得税や将来の相続税の概算税額など。
- 法的不動産調査、公法上の権利制限・インフラ・道路付け、税務上の優遇措置の適用可否や税額計算の前提条件を客観的資料に基づき調査・検証する必要があります。
覚えるポイント
- 顧客への確認事項は「ライフプラン・家族の意向・資産承継」、FPの調査事項は「権利関係・公法規制・市場相場・税務試算」に整理して答える。
間違えやすいところ
- 顧客に聞くこととFPが調べることの区別があいまいにならないよう注意します。
出題の前提:2024年度第1回FP1級実技試験(資産相談業務・PartII)設例に基づく出題条件
出典:金融財政事情研究会『2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
借地権者からの借地契約の中途解約申入れに対する法的効力と対応
不動産法務 · 旧借地法 / 定期借地・期間の定め / 中途解約権
設例において、甲土地の借地人であるX社より、借地契約の満了期日(2030年9月)前である2025年9月をもって中途解約したい旨の申入れがあった。契約書に中途解約に関する条項は存在しない。この申入れに対して、地主であるAさんは応じる必要があるかどうか、その法的根拠および実務上の対応を含めて説明しなさい。
解答・解説を表示
解答
Aさんは解約の申入れに応じる法的な義務はない。期間の定めのある土地賃貸借契約において解約権の留保がない場合、借地権者からの一方的な中途解約は認められないためである。ただし、Aさん自身も土地売却を検討しているため、違約金や更地返還などの有利な条件を引き出す交渉材料として活用したうえで合意解約に応じる実務対応が考えられる。
解説
期間の定めがある賃貸借契約では、中途解約の特約がなければ、借主は一方的に解約できません。借主は契約期間の満了まで賃料を支払う義務があるためです(民法第618条の反対解釈)。
解き方
- 甲土地の契約の中身を確かめます。期間40年の旧借地法が適用される契約で、契約書に中途解約の条項はありません。
- 期間の定めがある賃貸借で、解約権を留保する特約があるかを確かめます。特約がなければ、中途解約の申入れに法的な拘束力はなく、応じる義務もありません。
- Aさんは売却を考えています。更地で返してもらうことや、違約金(中途解約金)を受け取ることなど、有利な条件で合意解約するための交渉方針を伝えます。
関連する分野を学ぶ
覚えるポイント
- 期間の定めがある賃貸借契約では、中途解約の特約がなければ借主からの一方的な中途解約は不可。
間違えやすいところ
- 借地人(借主)が解約したいと言えば、地主は必ず応じなければならないと勘違いしやすいので注意します。
出題の前提:2024年度第1回FP1級実技試験(資産相談業務・PartII)設例に基づく出題条件
出典:金融財政事情研究会『2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
居住用財産の譲渡所得等の特例と被相続人の居住用財産の譲渡特例
不動産・タックスプランニング · 居住用財産の3,000万円特別控除 / 空き家に係る譲渡所得の特別控除特例 / 老人ホーム入居後の譲渡特例の適用要件
設例において、乙土地および乙建物について、(1) Aさんが介護付き有料老人ホームに入居した後に売却する場合の課税関係、および(2) 老人ホームに入居したAさんが死亡した後に相続人である子(長男Bさん・二男Cさん)が売却する場合の課税関係について説明しなさい。
解答・解説を表示
解答
Aさんが老人ホーム入居後に売却する場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する等の要件を満たせば「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用が可能です。Aさん死亡後に子が売却する場合、被相続人が老人ホーム等に入居していた一定の要件を満たし、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに耐震基準適合または取壊し等を行ったうえで売却する等の要件を満たせば、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」の適用を受けられる可能性があります。
解説
居住用財産の3,000万円特別控除は、住まなくなった場合でも、転居から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば適用されます。被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除も、要介護認定等を受けて老人ホームに入居していた場合には、一定の要件を満たせば使えます。
解き方
- Aさん本人が老人ホームに移った後に売る場合の「居住用財産の3,000万円特別控除」を確かめます。期限は転居から3年を経過する日の属する年の12月31日までで、他の用途に使っていないことも要件です。
- Aさんが亡くなった後に相続人が売る場合の「被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除(空き家特例)」を検討します。要件は、昭和56年5月31日以前の建築、要介護や老人ホーム入居、取壊しや耐震改修、1億円以下などです。「相続税の取得費加算の特例」との関係も考えます。
関連する分野を学ぶ
覚えるポイント
- 居住用財産の3,000万円特別控除は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却が期限となる。
- 空き家特例は、被相続人が要介護認定を受けて老人ホームに入所していた場合でも一定の要件下で適用可能である。
間違えやすいところ
- 老人ホームに入居するとすぐに居住用財産の3,000万円特別控除が使えなくなると誤解しやすいですが、転居から3年を経過する日の属する年の12月31日までは使えます。
- 空き家の3,000万円特別控除と相続税の取得費加算の特例は、両方一緒には使えません。有利な方を選ぶ必要があります。
出題の前提:2024年度第1回FP1級実技試験(資産相談業務・2024年6月16日実施)PartII設例に基づく。
出典:金融財政事情研究会『2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
土地有効活用・売却および生前対策に関するアドバイス
不動産・相続・事業承継 · 借地権解約に伴う明渡し条件交渉 / 甲土地・乙土地の一体売却 / 認知症対策(家族信託・任意後見) / 生前贈与と相続税対策
設例において、Aさんや長男Bさん、二男Cさんに対してどのようなアドバイスを行うべきか、不動産の処理方針、契約関係、財産管理・相続対策の観点から具体的に提案しなさい。
解答・解説を表示
解答
X社との借地契約の中途解約に応じるにあたり、店舗解体・更地返還を求めつつ残存期間に応じた立退料等の有利な条件を引き出すこと、甲土地と乙土地を一体でマンションディベロッパー等へ高値で売却すること、Aさんの高齢化・老人ホーム入居に伴う認知機能低下リスクに備えて任意後見や家族信託契約を締結すること、売却資金を活用した今後の生活資金確保および公平な遺産分割・生前贈与等の相続対策をアドバイスします。
解説
FPの提案では、顧客本人の意向と生活の安定をいちばんに考えます。そのうえで、権利関係の有利な整理、不動産価値の最大化、将来の能力低下に備えた財産管理、争族を防いで税負担を軽くする資産承継を、総合的にアドバイスします。
解き方
- X社からの借地解約の申入れに対して、どう交渉するかを提案します。解体して更地で返してもらうことや、解約の違約金などを話し合います。
- 甲土地と乙土地を一体で売って資産価値を高めます。税制の特例を使える期限も考えて、売る時期を助言します。
- 高齢のAさんの老人ホーム費用を確保する方法を考えます。将来、認知症で資産が動かせなくなることに備えて、信託や任意後見なども提案します。
- 土地を売ってできた現金について、相続税対策を提案します。生前贈与のしかたや、遺言書を書いて公平に遺産を分ける方法も伝えます。
関連する分野を学ぶ
覚えるポイント
- 不動産の提案では、単体売却と一体売却の経済的有利性の比較や、中途解約条項の有無に基づく交渉余地の検討が重要である。
- 高齢者の大型不動産売却では、売却完了までの意思能力維持と将来の資産凍結に備えた家族信託や任意後見契約の提案が不可欠となる。
間違えやすいところ
- X社の言うままに無償で譲ったり、無条件に解約に応じたりすると、解体費用を負担するなどの損をするおそれがあります。
- 不動産を更地にして売り現金にすると、相続税の評価額が上がることに注意が必要です。小規模宅地等の特例や借地権割合の控除が使えなくなるためです。
出題の前提:2024年度第1回FP1級実技試験(資産相談業務・2024年6月16日実施)PartII設例に基づく。
出典:金融財政事情研究会『2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
事案に関与する専門職業家と各士業等の役割
不動産・相続・コンプライアンス · 士業・専門職業家の役割 / FPの職業倫理 / 土地売却・借地権整理
Aさん(90歳)は、所有する甲土地(カーディーラーX社に期間40年の旧借地法で賃貸中、地積1,500㎡)について中途解約の申入れを受けている。また、自宅である隣接の乙土地(300㎡)・乙建物から有料老人ホームへ入居する予定であり、甲土地・乙土地の一体売却(マンションデベロッパー等への売却)を検討している。本事案を円滑に進めるにあたり、関与する専門職業家にはどのような者が考えられ、それぞれどのような役割を担うか。
解答・解説を表示
解答
弁護士(借地契約の合意解約や立退き・条件交渉等)、税理士(不動産譲渡所得税や居住用財産の3,000万円控除の税務判断、相続税の試算・申告)、司法書士(所有権移転登記等)、土地家屋調査士(境界確定測量・建物滅失登記等)、宅地建物取引業者(売却の媒介業務)、不動産鑑定士(土地の一体評価・適正価格評価等)。
解説
ファイナンシャル・プランナー(FP)は、顧客の複雑な課題を総合的に解決するために、いろいろな専門職業家と連携します。各士業の独占業務に関わらないように注意しながら、役割を適切に分けることが大切です。
解き方
- この事例の顧客の状況を整理します。借地契約の中途解約の申入れ、老人ホーム入居で自宅が空き家になること、甲土地と乙土地を一体で売る検討です。
- 必要になる手続きを洗い出し、それぞれを担当する専門家を決めます。権利関係の調整(借地権)、税務申告・試算、登記、境界確定測量、売却の仲介などです。
覚えるポイント
- FP実技試験の面接では専門職業家の名称だけでなく、本事案において具体的に何を依頼・連携するのかまで答える必要がある。
間違えやすいところ
- 税理士法や弁護士法、司法書士法などの専門家の職域を考えず、FPが自分で細かい税務判断や法的な紛争解決をできるかのように答えてはいけません。
出題の前提:2024年度第1回FP1級実技試験(資産相談業務・2024年6月16日PartII)設例
出典:金融財政事情研究会『2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)』
公式問題 p.1(公式掲載ページ) ↗(www.kinzai.or.jp)
2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)
参照した公式資料
金融財政事情研究会が公開した2024年6月 1級 実技(資産相談業務・6月16日 PartI PartII・PartII)の問題・解答資料です。
- 公式問題(公式掲載ページ) ↗ — www.kinzai.or.jp(資料の掲載案内)
金財のPDFは公式掲載ページからご覧ください。古い資料は現在の一覧に掲載されていない場合があります。

